自治体の設備仕様書には「3つの型」がある|他所の現場を受けたら最初に確認すること
はじめに:その仕様書、全部読む必要はありません
「初めての自治体から仕事を受けたら、まず分厚い仕様書を最初から読む」——これ、実はかなり非効率です。
筆者は今回、国土交通省の官庁営繕(全国共通の標準仕様書)をベースラインに、鹿児島市・東京都・大阪府・大阪市・名古屋市・横浜市・福岡市・北九州市・札幌市・仙台市・広島市・京都市・神戸市・川崎市・さいたま市という15の自治体が公開している電気設備・機械設備の施工要領書や標準仕様書を横断で読み比べてみました。
見えてきたのは、自治体の仕様書には大きく3つの「型」があるということです。この型さえ最初に見極めれば、「どこを読み込めば良くて、どこは知っている知識で流用できるか」が一気に分かります。
1. 3つの型
| 型 | 特徴 | 該当する自治体(今回確認できた範囲) |
|---|---|---|
| ①フル独自型 | 自前の条文体系を持ち、数値も独自に規定 | 鹿児島市・大阪府・大阪市・神戸市・名古屋市・仙台市(とくに水道局・下水道局系に多い) |
| ②準拠+差分型 | 国交省の標準仕様書とほぼ同じ条文をベースに、独自の追加・強化事項を積み増す | 東京都、北九州市(根拠となる条文の出典を逐一明記するスタイル)、福岡市(条文集というより「手引き」形式) |
| ③特則型 | 国交省標準仕様書を正として、追加事項だけを薄い冊子(特則仕様書)にまとめる | 横浜市建築局、川崎市、さいたま市 |
①フル独自型
自治体側で条文を1から書き起こしているタイプです。数値基準も自治体独自に設定されていることが多く、「国交省の標準仕様書を知っていればなんとかなる」という前提が通用しません。とくに水道局・下水道局が発注する浄水場やポンプ場向けの仕様書にこの傾向が強く出ます。
②準拠+差分型
条文の骨格は国交省の標準仕様書とほぼ同一で、そこに自治体独自の追加事項が乗っている形です。東京都の電気・機械設備工事標準仕様書は、章立てから文言まで国交省版と非常に近く、差分は「東京都が追加で強化している項目」に集中して現れます。北九州市の「電気設備工事施工要領」は、条文ごとに「【出典:監理指針P411】」のように根拠を明記するスタイルを取っており、どこが自治体独自の追加なのかが読み手にとって非常に分かりやすい作りになっています。
③特則型
いちばん読む量が少なくて済むタイプです。横浜市建築局・川崎市・さいたま市は「特則仕様書」という薄い冊子を発行しており、これは「国交省標準仕様書に対して、この自治体ではここだけ違います」という差分だけを記載した構成になっています。実質的には国交省標準仕様書がそのまま生きているので、試験勉強で身につけた知識がほぼそのまま通用します。
2. 見極め方:発注機関名を見る
型を見分ける一番簡単な方法は、その仕様書がどの部局から出ているかを見ることです。
- 「特則仕様書」「特別共通仕様書」という名前がついていたら、③特則型の可能性が高い(国交省版を持っておけば読む量は最小で済みます)
- 表紙に「◯◯市上下水道局」「◯◯市建設局(下水道)」とあれば、①フル独自型の可能性が高い
- 「標準仕様書」「工事標準仕様書」という素っ気ない名前で、かつ財務局・建築保全部門が発行元なら、②準拠+差分型であることが多い
これだけでも、初めて開く仕様書に対する心構えがだいぶ変わります。
3. もう1つの盲点:「庁舎系」と「上下水道系」は別世界
もう1つ、今回横断してみて強く感じたのが、同じ市の中でも「庁舎・学校を扱う営繕部局」と「浄水場・処理場を扱う水道局・下水道局」では、参照している世界がまったく違うということです。
名古屋市を例にすると、住宅都市局(庁舎・学校向け)の電気設備マニュアルは国交省の標準仕様書の枠組みをベースにしていますが、上下水道局(浄水場・ポンプ場向け)の工事共通仕様書は、耐震ひとつ取っても「下水道施設の耐震対策指針と解説(日本下水道協会)」「水道施設耐震工法指針・解説(日本水道協会)」という、水道・下水道業界団体の指針を優先的に参照する構成になっています。京都市も同様に、上下水道局の仕様書は「電気設備工事標準図(国交省)」への参照はありつつも、浄水場特有の塩素ガス環境への配慮(SUS配管の回避など)が随所に出てきます。
つまり、「◯◯市の仕様書」というくくり方は、実務ではやや粗すぎます。「◯◯市のどの部局が発注する、どんな施設向けの工事か」まで特定して初めて、正しい仕様書にたどり着ける、というのが今回の一番の収穫でした。
まとめ:他所の現場を受けたときのチェック手順
- 発注機関名(営繕系か、上下水道系か)を確認する
- 表紙・目次を見て、①フル独自型/②準拠+差分型/③特則型のどれに近いか当たりをつける
- ③特則型なら国交省標準仕様書の知識を軸に、差分だけを拾い読みする
- ①フル独自型なら、条文を素直に最初から読む時間を確保する
なお、今回の分析はあくまで筆者が個別に収集・確認できた範囲の資料に基づくものです。実際の工事では、必ず当該工事の特記仕様書と、発注者(監督職員)の指示を優先してください。仕様書は年版によって内容が変わるため、この記事で紹介している年版が最新とは限りません。
このシリーズでは、次回以降、実際にどんな数値がどれくらい自治体ごとに違うのかを具体的に見ていきます。
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